竪琴の名手、オルフェウス。
 
彼の恋人であるエウリュディケは
蛇に噛まれて死んでしまう。
 
オルフェウスは、黄泉の国の支配者ハデスのもとへ行き
エウリュディケを連れて帰りたい、と願い出る。

ハデスはオルフェウスに一つの条件を出して
その願いを聞き入れた。
その条件とは
 
"お前の後ろから恋人を歩かせる。
二人が地上にたどり着くまで
決して振り返ってはならない"
 
というものだった。
 
 
しかし・・・。
真っ暗で、果て無き道を歩くオルフェウスの心の内には
言葉にならない、大きな不安に襲われていた。
オルフェウスが、とうとう地上へ着こうかという時
彼女がついて来ているか、とつい振り返ってしまう。
 
その瞬間・・・。
道は崩れ去り、恋人は再び黄泉の国へ吸い込まれてしまった。
 
 
 
* * *
最後まで信じる事が出来なかった、オルフェウス。
不安で不安で仕方なかったんだ。
 
本当に着いて来てるんだろうか・・・
 
 
けど。
本当に不安だったのは
恋人のエウリュディケだったんだよ。
オルフェウスの背中を見ながら
『振り返らないで』と祈ってたはずなんさ。
 
信じて…。私はアナタの後ろに居るから。
だから振り返らないで・・・お願い。

 
けど、オルフェウスは振り返った。 
 
 
オルフェウスは恋人を信じられなかった?
 
違うよ。
 
信じられなかったんじゃない。
 
疑ったんだ。
 
"着いて来てないんじゃないのか?"
 
ってね。
 
 
二人の信頼関係に少しでもヒビが入ったなら
どんなに深い愛の絆も、簡単に壊れてしまうんだ。
 

信じるなんて言葉
確かに聞こえはイイけど
突き詰めれば、それですら愛ではないんだよ、きっと。
 
つまりは、そう。
所詮は自己満足の世界なんだ。
 
 
 
だったら・・・。
だったら愛って一体なんなんだ。
 
 
 
 
―今日イチ―
愛ってのは信じることですらないのかもしれん
愛ってのはただ 疑わないことだ
 
野島伸二
~車椅子の恋 ~

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